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大阪地方裁判所 昭和39年(ワ)1398号 判決 1965年1月19日

主文

被告は原告に対し金三〇万円およびこれに対する昭和三九年五月九日より支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告において金六万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

原告は、主文第一、二項同旨の判決および仮執行の宣言を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

一、原告は左記約束手形一通の所持人である。

(1)  額面       金三〇万円

(2)  支払期日     昭和三九年二月二九日

(3)  支払地・振出地  大阪市

(4)  支払場所     株式会社三和銀行九条支店

(5)  振出日      昭和三八年一一月三〇日

(6)  振出人      被告

(7)  受取人      原告

二、原告は本件手形を支払期日に支払のため支払場所に呈示したが、その支払を拒絶された。

三、よつて、原告は振出人である被告に対し、手形金三〇万円およびこれに対する本訴状送達の翌日より支払済に至るまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。

被告の抗弁事実に対し、すべてこれを争うと述べた。

被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、原告の請求原因事実に対し次のとおり答弁した。

一、原告の請求原因一の事実については、原告がかかる手形を振出したことは認めるが、受取人は原告ではなく、また、原告が適法な所持人であることを争う。

二、同二の事実は認める。

三、本件手形は、原告が訴外内山時雄に対し、ボールト・ナツト加工代金三〇万円の支払担保として、右加工請負契約締結時に前もつて振出交付したものであるが、昭和三九年一月一五日頃、同訴外人は右加工を半分の金一五万五八七円相当だけして行方不明になつたもので、原告としては同訴外人に本件手形金のうち金一五万五八七円のみの支払義務を負うものである。

四、したがつて、被告としては原告に対し本件手形の支払義務はない。

すなわち、

1、被告は右訴外内山に手形の振出はしたが、原告に本件手形の所有権を与えたことはない。

2、被告と右訴外内山との間には本件手形につき右のとおりの原因関係があるが、原告との間には何等債権債務関係はない。

3、右訴外内山は、前記請負を完了して完成した品物を納付したとき、原告に対し本件手形金を請求する約であつたのを、これに違反して、半分の仕事しかせず、しかも原告に損害を加えることを目的として原告に本件手形を交付したとすれば、それは正に権利濫用であり、無効というべく、かかる事情を知つて取得した原告は被告に対し本件手形を返還すべきである。

4、仮に原告が本件手形上の権利者であるとしても、訴外内山は被告に対し金一五万五八七円しか請求できず、また、被告には本件手形に対応して約束手形一通(額面金三〇万円、支払期日昭和三九年二月二九日、支払地、振出地大阪市、支払場所近畿相互銀行九条支店、振出日昭和三八年一一月三〇日、受取人被告)を振出しており、これを以て本件手形債権を相殺されるものであり、原告はこの事情を知つて被告を害することになることを知りながら、取得したものであるから、被告は悪意の取得者である原告に対し本件手形の支払義務はない。

5、また、原告に対し右支払義務があるとすれば、訴外内山からも既納加工代金一五万五八七円の支払請求をされ、被告としては二重払をせねばならぬことになるので、現在本件手形金三〇万円を銀行協会に供託している。したがつて、原告が被告に対し本件手形金請求をするためには、訴外内山との間で債権確定をしてくることが先決であり、右確定判決まで被告は本件手形の支払を拒絶する。

立証(省略)

理由

一、被告が本件手形を振出し、原告が現在これを所持するものであることについては当事者間に争いないところ、被告は原告が適法な所持人であることを争うので判断する。

甲第一号証そのもの、被告会社代表者本人尋問の結果それに弁論の全趣旨によると、被告は本件手形を受取人欄白地で訴外内山時雄に振出し、その後、同訴外人より転々単なる引渡の方法で譲渡され、最終的に訴外壺田仙次郎より原告が引渡により譲渡を受け、原告において白地の受取人欄に自己の氏名を記入補充したことが認められる。

しかして、受取人の記載なき白地手形は単なる引渡交付により譲渡し得ることおよびかかる白地手形の譲受人は白地の受取人欄を自己の氏名で補充して手形を完成し当該手形上の権利者になり得るものである。したがつて、被告主張の本件手形を振出交付した直接の相手方は訴外内山時雄であつて原告ではないから、原告に本件手形の所有権を与えたことがないとする点および原告との間に債権債務がないとする点はいずれも採用できない。

次に、証人内川喜美栄の証言により真正に成立したものと認められる乙第一および第三号証、右証言、被告会社代表者本人尋問の結果によると、被告は訴外内山時雄にボールト・ナツト加工を注文し、その請負代金三〇万円の支払担保のためにしかも注文時に本件手形を振出交付したこと、その代りに、被告は同訴外人から、仕事はしないのに本件手形の支払をしなければならぬという損害を防止するために、本件手形の見返りとして同額同支払期日の約束手形(乙第一号証)の振出交付を受けたこと、しかるに、訴外内山は本件注文の約半分金一五万五八七円分しか仕事をせずに行方をくらまし、さらに、本件手形を他に譲渡したことが認められる。

しかして、被告は訴外内山の右手形の譲渡は権利濫用であるというが、仮に請負代金の支払は注文品全部完成納品時であつたとしても、右譲渡は単に債務不履行になるにすぎず、また、原告は同訴外人より直接本件手形を譲受けたものでないこと前述のとおりでありかつ原告が右事情を知つて本件手形を取得したものと認めるに足る証拠は何等ないから、被告の右権利濫用ないし原告のこれについて悪意または重大な過去の主張は採用できない。

したがつて、原告は本件手形の適法な所持人である。

二、被告は、原告が適法な所持人としても、被告と訴外内山間の前記事情そして乙第一号証なる手形により相殺されれば本件手形金請求のできなくなるのを免れるため同訴外人が敢えて譲渡した事情を了知して取得したものであるから、原告に対しては訴外内山に対する人的抗弁を主張するという。しかし、原告が右事情を知つて本件手形を取得したと認めるに足る証拠は何等ない。したがつて、右悪意の取得者なる主張は採用できない。

三、なお、被告は原告が訴外内山との間の債権確定をすることが本訴請求に先行して必要であるというが、原告が本件手形の適法な所持人である以上その振出人である被告に手形金の請求をなし得るのは当然であり、被告のいうかかる債権の確定は何等必要でない。

四、以上よりして、被告は原告に対し本件手形金三〇万円およびこれに対する本訴状送達の翌日であること本件記録より明らかである昭和三九年五月九日より支払済に至るまで年六分の割合による遅延損害金を支払うべきである。

よつて、原告の本訴請求は理由があるから、これを認容し訴訟費用につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

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